ドキュメンタリー作品「ゆらぎ ー和紙と舞のまじわりの中でー」
制作の裏側
ドキュメンタリー作品「ゆらぎ ー和紙と舞のまじわりの中でー」
制作の裏側
こんにちは。岐阜で映像クリエイターとして活動している井村旭宏と申します。普段は映像の企画から撮影・編集まで手がける「ビデオグラファー」として映像制作を行っています。
今回は、私が自主制作したドキュメンタリー作品「ゆらぎ ー和紙と舞のまじわりの中でー」を題材に、感覚的なもの・言葉にしにくいものを、どのような考え方とプロセスで映像に落とし込んでいったのかをまとめてみようと思います。
▼「ゆらぎ ー和紙と舞のまじわりの中でー」
この作品は、舞踊家の遠山奈津子さんと、小原和紙の職人である加納登茂美さん・加納恒さんご夫妻による、和紙と身体表現を組み合わせた演舞の記録映像です。よろしければ、まず本編をご覧いただけたらと思います。
遠山さんが、小原和紙を実際に動かしたときの独特な動きに面白さを感じ、「これは身体表現に使えるのではないか」と考えたことが、このプロジェクトの出発点でした。私はその演舞と、和紙が生まれるまでの制作過程をドキュメンタリー作品として撮影・編集させていただきました。
この作品で私が向き合ったのは、「揺らぎ」や「儚さ」といった言葉だけでは伝わりづらい感覚をどう映像言語に翻訳するか、という課題でした。ここでは、実際に意識した工夫を5つに整理してご紹介します。
作品は、遠山さんが小原和紙に惹かれた理由と、舞と和紙を組み合わせようと思った動機を語るところから始まります。作品の概要やコンセプトを説明する構成にもできたはずですが、「なぜ」という動機から入る構成を選びました。
この作品は和紙の紹介映像ではなく、表現者の挑戦の記録です。まず最初に「状況」ではなく「動機」を示すことが、この作品にとって一番誠実な入り方だと感じました。
遠山さんは、小原和紙について「見たことのないほどの白さ」「向こう側の景色が透けつつも、手前に何層もの白が重なって見える」と表現しています。この感覚を伝えるために、私は光の質や方向による質感表現、カラーグレーディングによる雰囲気づくりを重視して制作しました。
なかでもこだわったのは、光の方向です。なるべく逆光や斜め後ろからの光で繊維の質感が浮かび上がるように撮影することを意識しました。
タイトルにもなっている「ゆらぎ」を、私は一つの動きとしてではなく、4つの異なる「動き」の重なりとして捉えました。
和紙の動き
身体表現としての動き
表情の動き
光の動き
この4つの「動き」を「揺らぎ」として、作品の中に丁寧に織り込んでいくことを大切にしました。
私が編集で意識していたのは、なるべく近い動きやカメラワークの素材同士をつなぐこと、そして寄りのカットで感情が動く瞬間を効果的に配置することです。これは映像編集として極めて基本的な方針です。
特別な技法を用いるのではなく、丁寧に撮影し、基本的な編集を積み重ねることが、映像作品の質を上げる一番のコツだと考えています。
加納さんご夫妻には、和紙制作のさまざまな工程をできる限り撮影させていただくようお願いしました。ただ、この作品は和紙制作のハウツー動画ではありません。そのため、工程を時系列に伝えるのではなく、小原和紙の歴史や背景、職人として直面している苦悩、それを乗り越えた先の希望や展望という「ヒーローズジャーニー」(主人公が試練を乗り越えて成長する物語の型)を意識した展開で構成しました。
苦悩のパート:小原和紙がこの先も必要とされ、生き残っていけるのかという危機感
乗り越えのパート:加納さんご夫妻自身もまだ模索中でありながら、新しい表現に挑戦し、和紙の価値や可能性を広げていくことに希望を見出していること。今回の遠山さんとのコラボレーションも、その試みの一つとして位置づけられていること
このように、素材の並べ方や工程の見せ方一つひとつに、物語としての起伏を設計する視点を持ち込むことを大切にしています。
この映像は、海外の方も含め、さまざまな方に見ていただけているようです。映像として残すことで、作品だけでは伝わらない文脈や作家の想いを国境を越えて伝えられる。そのことを、あらためて実感しています。
私は映像クリエイターとして、伝統や地域の文化、芸術表現といった、未来に残していきたいものと、そこに息づく作家の方々の思いを映像に記録していきたいと考えています。
今回は、ドキュメンタリー作品「ゆらぎ ー和紙と舞のまじわりの中でー」の制作の裏側を通じて、感覚的なものを映像に落とし込むための考え方をご紹介しました。
✔ 冒頭は説明ではなく、表現者本人の「動機」から始める構成にした
✔ 和紙の質感は、逆光を意識した光の当て方で表現した
✔ タイトルの「ゆらぎ」を、紙・身体・表情・光という4つの動きの重なりとして捉えた
✔ 編集は特別なことはせず、基本を丁寧に積み重ねた
✔ インタビューは「ヒーローズジャーニー」として物語を設計した
感覚に訴える映像だからこそ、その裏側には一つひとつ理由のある設計が必要だと、私は考えています。今回の制作事例のような、伝統工芸や芸術表現、ブランドの想いといった「言葉にしにくいもの」の映像制作をお考えの企業様がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、お気軽にご相談いただけたら嬉しいです。
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