プロの映像クリエイターが実践する
データ管理術
プロの映像クリエイターが実践する
データ管理術
「もし大切な撮影データが消えてしまったら……」
そんな悪夢のような事態を回避するために、私は自身で策定したデータ管理ルールを徹底しています。本記事では、そんな“プロの映像クリエイターが実践するデータ管理術”についてご紹介いたします。
こんにちは。映像クリエイターの井村旭宏です。岐阜を拠点にビデオグラファーとして、主に企業や自治体の映像制作を手がけています。また、以前はメーカーの広報としても数多くの制作現場に立ち会ってきました。そんな私が映像クリエイターとして活動する中で、ある意味で高価なカメラやレンズ以上に慎重に取り扱っているのが「データ」です。今回は、データ管理の考え方から具体的な手順、重要性についてクリエイターとクライアントの両面の視点から詳しくご紹介したいと思います。
まず、データ消失リスクは具体的にどんなものがあるでしょうか?
メモリーカードの故障によるデータ消失
編集用SSDやHDDの破損
フォーマットのタイミングミスによるデータ消去
主にはハード的な問題とヒューマンエラーによるものですが、これらの要因は絶対に防げると言えるものではありません。そこで、私のデータ管理術の核となる考え方は、“データは生まれた瞬間から常に2つ以上存在する状態にする”ということです。これは私のデータ管理の根幹にあるルールです。データが1つのメディアやストレージだけに存在する瞬間があると、そこに不具合が起きてしまったときにすべてが失われてしまいます。この考えをもとに、撮影してデータを作成した瞬間から納品まで、常に2箇所以上にデータが存在する体制をキープするよう心がけています。では、具体的なデータ管理フローに行ってみましょう。
以下は、実際に私が仕事で行っているデータ管理の流れです。
クライアントワークでは必ずWスロットのカメラを使用し、メディア2枚の同時記録を徹底しています。SDカードやCFexpressカードなどの記録メディアは、小さくて扱いやすい反面、意外と壊れやすい一面もあります。一般的に撮影データが正しく記録されないというトラブルは0.1~1%程度で起こると言われていますが、2枚同時記録とすることで、2枚が同じタイミングで不具合を起こす確率は1万分の1以下(100分の1の2乗)になるため、同時記録とする頃でメディア起因による記録漏れの確率を著しく下げることが可能です。
可能な限り当日中、遅くとも翌日午前中には、撮影データは編集用SSDにコピーします。なお、撮影データはSLOT1に入れたメディアのデータを取り込むようにしています(理由は後述)。
編集用SSDのデータはバックアップ用のHDDに常に同期される環境にしています。データの同期にはCarbon Copy Clonerというソフトを使用しています。変更があったファイルだけを自動で高速コピーできるため、手間や人的エラー(コピー漏れやコピー忘れ)を大幅に軽減できます。
カード内のデータはSSDにコピーしてもすぐにはフォーマットしません。基本的には次の撮影の前日にフォーマットするようにしています。また、フォーマット前にはSLOT2のカード(編集用SSDに移していない方のカード)のデータをバックアップ用HDDに別途作成してある一時保管フォルダにコピーしてから行うようにしています。編集用SSDにfデータを入れる際は、映像素材だけをコピーしていますが、万が一のコピー漏れも考えられるので、こちらはカード内のデータを丸ごとコピーするようにしています。
納品してから1ヶ月後ぐらいを目安に編集用SSDのデータを2台の保管用HDDにコピーします。HDDのミラー同期はFreeFileSyncというソフトを使用してます。データの複製に不備がないことを確認できたら、編集用SSDとバックアップ用HDDのデータは削除します。
また、完成データはクラウドストレージでも保管します。
クラウドストレージはHDDに比べて容量に対する管理コストがシビアなため、下記のデータのみをアップロードしています。
完パケデータ
白データ(完パケからテロップやエフェクト、BGM、SEを削除したもの)
プロジェクトファイル
火事や災害で万が一、物理メディアで全破損した際のバックアップとして最低限データ復元や修正が可能な素材のみをクラウドで保管しています。
※なお、クライアント様とあらかじめ取り決めさせていただいているデータ管理期限を超えた素材に関しては、予告なく複数データ管理を解除させていただく場合がございます。
撮影用メディア(SDカードなど)×2個
編集用SSD
同期用HDD(Carbon Copy Clonerを使用する場合、復元用のデータも生成されるため編集用よりも容量が大きいものを使用することをお勧めします)
保管用HDD×2個
ドライブストレージ(DropboxやGoogleストレージ)
万が一、データが破損・消失してしまえば、撮影のやり直しには大きな費用と時間がかかりますし、そもそも撮り直しが効かない現場も少なくありません。しかし、クオリティや予算はクリエイター選定の大きな判断基準になる一方で、できてあたり前と思われているからか、データ管理体制については意外と問われることがありません。(私もクライアントからこの手の質問をされたことは一度もないため、今回、情報開示の意味も込めてこの記事を書きました。)
企業の広報・販促における映像の活用は、もはや特別なことではありません。その中で、「クリエイティブ+信頼性」の両輪を持つパートナーを見つけることは、プロジェクト成功の大きな鍵となります。
もし映像制作についてお悩みのことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。