ショットのバリエーションを増やす考え方とテクニック
― 即興で撮る現場で意識したい5つの要素 ―
ショットのバリエーションを増やす考え方とテクニック
― 即興で撮る現場で意識したい5つの要素 ―
動画を撮影していて、完成映像がどこか単調に感じられたことはありませんか?
「なんだか同じようなショットばかりになってしまう・・・」
これは映像初心者に限らず、プロでも陥りがちな悩みです。
動画は写真と違って、1枚の絵で完結するメディアではありません。複数のショットを「つなぐ」ことでストーリーや流れを生み出すことが動画の本質です。だからこそ、変化に乏しい映像は、いくら素材が美しくても視聴者は飽きてしまいます。
こんにちは。ビデオグラファーの井村旭宏です。
私は岐阜を拠点に企業や自治体の案件を中心に、撮影から編集までワンストップで映像制作を行なっています。
私のようなビデオグラファー(ワンマン〜少人数で撮影現場を回す映像クリエイター)は、限られた時間・人数で現場をこなすことが多いため、必ずしも絵コンテを用意するわけでもありません。むしろ、絵コンテに縛られない柔軟性や即興性が強みとも言えます。
今回は、現場で即興的に判断しながら、いかにショットのバリエーションを確保していくのかについて、私自身が意識している5つの要素についてご紹介したいと思います。
シークエンス(映像の連続性)
被写体との距離感(ロング/ミドル/アップ)
構図
アングル(カメラの高さと角度)
カメラワーク
映像制作において、映像は個々のカットがランダムに並ぶのではなく、「塊(かたまり)」として意識されるべきです。この塊は「シーン」と呼ばれ、少なくとも3カット以上で構成されます。一連のカットをまとめて一つの動きや状況を伝えることで、視聴者にとって論理的につながりのある映像となり、飽きさせない効果があります。
例えば、料理シーンを撮影する場合はこのようなシーンを想定できます。
台所全体のカット
包丁で食材を切るカット
食材をフライパンに入れるカット
フライパンで食材を炒めているカット
調味料を入れるカット
仕上がった料理をお皿に盛り付けるカット
このようにある動作を一連の流れで捉えることで、映像が単調になることを避け、ストーリーを生み出します。
写真や動画において、被写体との距離感は伝える情報量に直結します。特に動画撮影においては、「ロング」「ミドル」「アップ」という3つの距離感で撮ることで、編集時のつながりやすさや自由度を高めることが可能です。
広角レンズで広く撮ったり、望遠レンズで手先や顔のアップを撮ったりなど、様々な距離感のショットを取り入れることで、表現の幅が広がります。
ロングショット:
被写体全体や広い範囲を映します。画面の情報量が多く、シーンの状況を伝えたい場合に適しています。
ミドルショット:
ロングとアップの中間に位置し(人物だとバストアップぐらい)、情報量と感情の両方をバランスよく伝えるショットです。
アップショット:
被写体に寄って狭い範囲を映します。被写体の感情を伝えたり、具体的なディテールに注目させたりする効果があります。
構図を考える目的は、画面内の情報を整理することです。映像制作の長い歴史の中で効果的な構図は、ほぼ確立されています。細分化すればかなりの種類があるのですが、個人的には以下を押さえておけば良いかなと考えています。
日の丸構図:
画面の中央に最も重要な要素を配置する構図です。シンプルでありながら強いインパクトと存在感を与えます。
3分割構図:
フレームを縦横に3分割する線の交点に、重要な要素(水平線や人物の顔など)を配置することで、画面に安定感と整理された印象を与えます。
リーディングライン:
画面の中に伸びる線(道路、橋など)を利用して、見る人の視線を目的の被写体へと誘導する構図です。
シンメトリー:
左右対称や上下対称の構図で、人間が本能的に美しいと感じる視覚的な調和を生み出します。
ネガティブスペース:
被写体の背景をシンプルに保つことで、被写体に視線を集中させ、際立たせる構図です。
額縁構図:
画面の中に窓枠、ドア、ミラー、草といった「額縁」となる要素を意図的に配置し、その中に被写体を収める構図です。視線を誘導し、奥行きや立体感を表現します。
アングルとは、被写体に対してカメラをどの位置(高さや角度)から構えるかということです。アングルを意識することで、映像の視覚的な魅力を高めることが可能です。以下は代表的なアングルです。
アイレベル(被写体の目線の高さ):
被写体の目の高さにカメラを合わせて撮影するアングルです。最も標準的で使いやすいアングルなので、基本はアイレベルで考えれば良いですが、それのみとなってしまうと面白みに欠けてしまうため、他のアングルを効果的に織り交ぜることが重要となってきます。
ハイアングル:
カメラを被写体より高い位置に設定し、見下ろすように撮影するアングルです。全体の状況や空間の広がりを伝えることや、手元の作業など特定の詳細を上から見せたい場合に有効です。
ローアングル:
カメラを目線よりも下げて、下から見上げるような角度で撮影するアングルです。被写体の迫力や臨場感を強調することができます。また、ローアングルは背景に余計な要素が入りづらく、構図を整える際にも有効なアングルです。
映像が“動画”である以上、画の動きは大きな表現手段となります。ただし、やみくもに動かすのではなく、被写体やシーンの特性に応じて時には動かさないことを見極めるのも重要です。カメラワークの選択は、情報の伝達や視聴者の没入感に直結するため、動画撮影では特に意識したいポイントです。
動きのある被写体 → 固定ショットを基本に考える
動きのない被写体 → 積極的にカメラを動かす
両方動く場合 → 被写体の動きに追従 or 逆方向で動きを強調
両方動かない→何かしらの演出意図がある場合を除き、基本は考えない
固定ショット:
カメラを固定して撮影します。カットを最も違和感なくつなげられるので、まずは固定ショットが基本となります。
パン:
カメラを固定したまま左右に振る動きです。人の目線を再現したり、動きをフォローしたりする際に使われます。
チルト:
カメラを固定したまま上下に動かす動きです。人の目線の上下を再現したり、高さのある被写体の情報を伝える際に使われます。
プッシュイン/プルアウト:
被写体にゆっくり近づく(プッシュイン)または遠ざかる(プルアウト)動きです。
プッシュインは被写体への注目やシーンの始まりを、プルアウトは被写体からの注目の解放やシーンの終息を促す効果があります。
トラッキング:
被写体を追従して撮影するカメラワークです。視聴者が空間の移動をリアルタイムに体験し、映像への没入感を高めます。前、後ろ、横など様々な方向から追従できます。
オービット:
被写体を中心に回り込みながら撮影します。周囲の風景が激しく動き、映像にダイナミックさや空間の広がりを与える効果があります。
カメラワークについては、何が最適なのか編集してみないとわからないということも正直多いです・・・。ですので時間が許すのであれば、同じカットでも複数のカメラワークを抑えておくことが重要だったりします。(ゆえに、ビデオグラファーには軽くて機動力のある機材が特に重要になってきます。)
これら5つの要素は、「画の豊かさ」を担保するための基礎となります。特にビデオグラファーのように一人で現場対応するスタイルでは、“引き出しの多さ”が結果に直結します。今回ご紹介した要素が頭の中で整理されているれば、即興的な撮影現場でも多彩なショットのバリエーションを生み出していけると思います、
本記事が、映像制作に携わる方や、これから撮影に挑戦してみたい方のヒントになれば幸いです。
もし映像制作についてお悩みのことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。